1-3 次世代のスター ステフィン・カリー

■甘いマスクと脅威の3P、ステフィン・カリー

レブロンと並ぶNBAの顔、NBAに新しい時代をもたらしたのがステフィン・カリーという選手です。カリーはお父さんも元NBA選手、弟もNBA選手というバスケットのサラブレット、甘いマスクで女性にも大人気の選手。2014-15、2015-16シーズンと2年連続でNBAのMVPを受賞(2015-16シーズンは史上初の満票でMVP)しました。全てのプレーにセンスあふれる選手なのですが、彼の最大のスペシャリティはなんといっても3P(スリーポイント)にあります。

 カリーはNBA歴代でも間違いなく、しかもずば抜けて最高の3ポイントシューターです。シュート頻度もシュートを打つタイミングやテクニックも完全に異質な存在です。

 

 

■カリーはどのくらいすごいか

下のデータはNBAのシーズン3P成功数のランキングです。TOP10のうち、TOP3を含む5つが(直近5年間)カリーの記録です。そして成功数をみてください。402本という成功数はカリーが現れる前までの記録(269本)の実に1.5倍の本数です。ちなみに歴代TOP100位の本数は185本。100位と6位の差(269-185=84本)より、1位と元1位(6位)の差(402-269=133本)の方が圧倒的に大きいのです。

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 そして、TOP10のうち実に8つの記録が全て2010年以降の記録です。上記青の部分です。(※【補足】ちなみにTOP100のうちだと約半分が2010年以降の記録です)

これで3P新時代のトレンド、そしてカリーの記録の異常さを感じていただけるのではないかと思います。

 

■カリーが示す圧倒的なデータ

NBA全体の2Pシュートの平均確率は約45%、50%を超えれば超一流選手です。(2016−17シーズンで50%を超えた選手は27人しかいません。)

NBA全体の3Pシュートの平均確率は約35%、同様に40%を超えれば超一流です。(2016-17シーズンで40%を超えた選手は26人しかいません。)

カリーの3Pは45%近い確率で決まります。上記の圧倒的な成功数を45%の確率で決めてしまうのです。45%の確率で3Pを決めるカリーと同じ本数の2Pを50%の確率で決めたとしても仮にシュート数が100本であれば、135対100まで差が開いてしまいます。

 バスケにおける3Pの重要性は日に日に増しています。NBAで3Pが採用された約35年前に比べて1試合あたりの3Pシュート数は10倍以上、2000年と比べても倍の数になっています。(2000−01シーズンで全チーム平均13.7本、2016-17シーズンで同平均27本。)今ではNBAシュートの約4本に1本のが3Pになりました。

もちろんカリーの3Pは全チームに警戒されます。それでも時には特異なタイミングで、時にはラインより遥かに遠い距離の位置からのシュートが面白いくらい決まります。

 

ジョーダンとは別の潮流がようやく

カリーというスターの登場とともにもたらされたこのトレンドは明らかにマイケル・ジョーダンの時代にはなかったものです。そしてカリーのシグネイチャーシューズが今までの主流だったナイキではなくアンダーアーマーであることも、今までの潮流とは違う新時代のヒーローが登場したことを後押ししています。バスケットボールという競技にとっては、あまりにも強すぎるジョーダン(そしてナイキ)の影響外でこれだけのスターが生まれたことはとても喜ばしいことです。かつて世界中のバスケ少年たちがマイケル・ジョーダンのプレーを真似したように、いま彼らはカリーのプレーを真似しています。 

そしてNBAのトレンドが変わればもちろん日本を含めた世界のトレンドも変わります。世界中のトレンドが今まさに変化の最中にあり、今ではジョーダンの系譜を受け継ぎつつ3Pの能力を兼ね備えたハイブリット型の選手も生まれつつあったりと、進化がどんどん進んでいるのです。

 

 〈データ参考〉

NBA.com/Stats | Season Leaders

NBA & ABA Single Season Leaders and Records for 3-Pt Field Goals | Basketball-Reference.com

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1-2 現在のNBAの王、キングレブロン。

■ 自他共に認める現在のNBAのキング、レブロン

現在のNBAでまず押さえておきたいのが、キングことレブロン・ジェームズです。

もうすぐ始まる今シーズン(2017-2018)で15シーズン目を迎えるベテランですが、高校卒業後すぐにNBA入りしたので現在32歳、今まさに脂が乗って円熟期を迎えているプレイヤーです。既にNBAを3度チャンピオンに導いていて、ここ直近6年連続のNBAファイナル(シーズン後に行われるプレイオフの決勝)は全てレブロンのいるチームが進出していて、キングの愛称の通りコートで圧倒的な支配力のある選手です。

※【補足】ちなみにジョーダンはファイナルに進出した6回全てのシリーズに勝利している(優勝も6回)、のに対し、レブロンは3回/7回の優勝でありこれも十分偉業なのですが、やはり比較するとジョーダンの勝負強さはずば抜けています。 

 

■ うまい、速い、強い。ジョーダン系譜の完成形。

レブロンは細かく分類すればジョーダンとは少し違うタイプのプレイヤーではあるのですが、プレイスタイルの系譜という意味においては完全にジョーダンの系譜です。ジョーダンに憧れて背番号は同じ23。シューズの契約はナイキという点も同じです。

そしてその系譜の中で、(少し前に引退したコービーブライアントという選手と並び)究極に完成されたプレイヤーです。ジョーダン以上にオールラウンダーでうまい、速い、そして強い。弱点はほぼありません。レブロンがいまNBAのどのチームにいっても、レブロンが移籍したチームが超強豪チームになると断言できる、そのくらいの選手です。 

 

■誰も止められないオールラウンダー

レブロンはオフェンスもディフェンスも超一流、力強いフィジカルを持ちながら小さい選手に負けないスキルとテクニックを有し、バスケットの5つのポジション全てをこなせるといわれています。そして高校卒業後そのままNBAに入りすぐに活躍を始めたということもあり、NBAの数々の最年少記録を塗り替え、このままいけば通算記録の多くも塗り替えるであろうといわれています。記録の上ではマイケル・ジョーダンを超えてしまうかもしれません。

※【補足】ちなみにマイケル・ジョーダンも屈指のオールラウンダーで、かつて得点王とMVPと年間最優秀ディフェンス選手のトリプル受賞という前人未到の偉業を成し遂げたことがあります(1988)。

 

■ 近年のNBAに生まれてきた新しいトレンド

しかし彼を中心にまわっているNBAに最近、新しいトレンドを引っさげて強力な対抗勢力が生まれています。その先頭に立つのがステフィン・カリーという選手。彼のことを語る前に、まず少し新しいトレンドの話をさせてください。

 

■ 全ては確率の高いシュートのために

バスケットボールは1試合の点数が100点を越えることも珍しくありません。例えば1試合で100回のシュートを打ち、そのうち半分が得点になって1回の平均得点が2.5点であった場合総得点は125点になる、という具合です。

彼らは常にその状況の中で最も確率の高いシュートを打とうとします。戦術やフォーメーション、選手の動きもパスも全てより高い確率でシュートを打つためのものです。言われてみれば当然の話かもしれませんが、これは意外と忘れがち、でもとても重要なポイントです。全てのプレーは高い確率で決まるシュートを打つためにやっているということを改めて認識しながら観戦すると、また面白いものになると思います。極めて高い確率のシュートだからみんなダンクをするのです。

そして確率以外にもう1つ大事なのが、1回の得点です。フリースローを除く通常の攻撃で得られる得点は2点と3点の2種類があるので、同じ確率であれば間違いなく3点を狙うべきですし、80%の確率で2点をとれるのと40%の確率で3点をとれるのを比較するのであれば、前者を選択すべきということになります。

 

■3P新時代の到来

そんな中で今のNBAでは3Pの価値が大幅に見直されています。以前は3Pは難しいシュートとされ、一部の選手と専門家のような選手の専売特許でした。効率を考えると難しい3Pを狙うよりはより確率の高い2Pのシュートの方が優先されていたのです。

しかし、今ではどのポジションの選手でも3Pを打つようになり、3Pを打てないことが弱点になりつつある時代になっています。漫画スラムダンクでいえば、ゴリもリョータも桜木も高い確率で3Pを打つことが求められている時代なのです。

これは選手の技術の向上もさることながら、より詳細なデータを測定・解析できるようになり高い効率を求めた必然の結果です。そんな3P新時代の申し子がステフィン・カリーなのです。

※【補足】全体の3Pの成功率は実は以前とあまり変わっていません(約35%)。シュートを打つ人数と本数が圧倒的に増えたのです。

 

つづく・・・

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1-1 マイケル・ジョーダンからはじめましょう

■ バスケ世界一のリーグ「NBA

日本でも、昨年(2016年)「Bリーグ」という待望の統一リーグが開幕し、少しづつバスケットボールが盛り上がってきました。

バスケといえばNBA、バスケットボールは男女ともに世界中で盛んなスポーツで、その競技人口4.5億人で世界一とも言われています。そして世界中のバスケットボールの頂点は明確にNBAです。

ざっくりNBAには350人の選手が登録されていますが、世界1位〜350位の選手はほぼNBAに在籍していると考えて問題ありません。

NBAは日本のリーグはもちろん、他国のどのリーグともレベルが全く違います。日本の中学生や高校生も部活でバスケ部に入り熱中するようになれば皆NBAに興味は持つのですが、コーチからは、「レベルが違すぎてもはや日本のバスケットボールとは別スポーツだからあんまり参考にするな、あんまり見過ぎるな。」といわれることもあるくらいです。

 

マイケル・ジョーダンからはじめましょう

そんなNBAを観たことない人でも、マイケル・ジョーダンという人の名前はおそらく聞いたことあるでしょう。マイケル・ジョーダンNBA史上最高のスター選手です。いや、アメリカ史上、いや、スポーツ史上最高のスター選手といっても過言ではありません。

その記録(優勝6回、得点王10回、MVP5回、ファイナルMVP6回、金メダル2個など)はもちろん、バスケットという競技に対してあまりに大きなインパクトを残しました。今のNIKEがあるのもマイケル・ジョーダンがいたからに他なりません。他にも彼のおかげで商業的に成功した企業を挙げればキリがないですし、何よりもバスケットボールの競技性を変え、アメリカのスポーツに対してあらゆる面でベーブ・ルースよりも強い影響力を残しました。数々の逸話や伝説も語り尽くせません。ちなみにまだ年齢は50代で今はNBAのチームのオーナーになっています。

マイケル・ジョーダン以前と以後ではバスケットは明確に違う時代なので、現代のバスケットを語る上ではマイケル・ジョーダンからはじめるのが最も都合が良いです。もちろんマイケル・ジョーダン以前もNBAは素晴らしいリーグで、素晴らしいチームも選手も数多くいますが、長くなりすぎてしまうのでまずはここからはじめるのが良いと思っています。

 

ジョーダンは何がすごかったのか

バスケットの神様とも呼ばれるマイケル・ジョーダンは何がすごかったのか、敢えて絞っていうとすれば、類まれなる得点能力と大舞台でのヒーローのような勝負強さです。彼はバスケットボール選手として完成されたオールラウンダーなのです(ディフェンスも超一流)が、やはり特筆すべきはこの2点です。

得点能力に関しては「エアージョーダン」の愛称の通り、その身体能力を活かした滞空時間の長い空中でのムーブが特徴で、華麗なステップ、多様なジャンプシュート、ダブルクラッチやダンクなどそのオフェンススキルはその後のバスケット競技に絶対的な影響をもたらしました。

そして、キャリアの当初こそチームの結果は伴わなかったものの、大舞台での異常な勝負強さは、見てる僕達をジョーダンが勝つことが決まった物語を見ているような錯覚に陥らせるほど、勝負どころで必ず決めて必ず勝ってくれるヒーローのような選手だったのです。(出場したNBAファイナルは6回は全て勝利して優勝、出場した2回のオリンピックはともに金メダルなど。)

■ 世界中の全てのコートに「マイケル・ジョーダン」がいた

当時、全世界のバスケットボールプレイヤーがマイケル・ジョーダンに影響を受けました。どの国のどのコートにいっても、そのほとんどが彼のシグネイチャーモデルのバッシュを履いて、彼のようなプレーヤーを目指し彼のプレーを真似していました。そうではない人も彼のようなプレイヤーを阻止する練習をし、彼のようなプレーを止めることに喜びを覚えたのです。

つまり、当時は世界中の全てのバスケットコートに「マイケル・ジョーダン」がいました。そのくらい強い影響力があったのです。

そのマイケル・ジョーダンNBAを引退したのは2000年くらいなのですが、その後も素晴らしい選手が現れて、NBAを支えてきました。「ジョーダン2世」という異名をとった選手も何十人も現れ、その多くが本当に素晴らしい選手でした。しかし、ファンはマイケル・ジョーダンで味わったあの熱狂的な思いを完全に取り戻すことはしばらくできませんでした。

マイケル・ジョーダンが引退した後もまだ全てのバスケットコートに「マイケル・ジョーダン」がいたにも関わらず、やはりそれはマイケル・ジョーダンではなかったからです。NBAとそのファンはあまりにも偉大すぎるジョーダンの幻影に長年悩まされていたのです。

 

■ ようやく見えてきた新しい時代を担う2人のスター

 ジョーダンが引退して約15年、今ようやくNBAに新しい時代が見えてきました。それは「マイケル・ジョーダン」の系譜を極め完成形に辿り着きつつあるスターの存在があることと、バスケットコートから「マイケル・ジョーダン」以外のスターがいよいよ生まれてきたからです。そしてその新しいスターの登場とともにバスケットの競技性も変わりました。「マイケル・ジョーダン」時代のバスケットがようやく目に見える形で進化をしたのです。

つまり、いまNBAはすごく面白いということです。そしてこの延長に日本のバスケットボール強化のカギがあるとも考えています。

 

つづく・・・

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